はじめまして。バーナーワークという技法で、耐熱ガラスの中に「花を咲かせる酒器」を制作している【さくら坂ぐらす】のおおたしのぶです。
ガラスとの出会いは、偶然でした。
かつて働いていた職場で、ガラス工芸を知り、初めて炎と向き合いながらガラスを扱うという世界に足を踏み入れました。
そのとき出会ったのが、透き通るような透明感と、火を通して変化していくガラスの美しさ。
形を変え、色を重ね、冷えるとまた違う表情を見せるその素材に夢中になりました。
そしてある日、「ガラスの中に花を咲かせる」という技法に出会い、電流が走りました。
こんな表現ができるのかと、感動とともに、どうしても自分の手で咲かせてみたいと思ったのです。
夢中で教室に通い、先生に教わりながら挑戦を重ねましたが、最初は思うようにいかず、なかなか満足のいく花を咲かせることができませんでした。
形にならない花、思うように広がらない色。失敗と試行錯誤の連続の中で、ただひとつ信じていたのは、「出来ないことも、続ければきっと出来るようになる」という想いでした。
もがくような試行錯誤の中、突然、先生が不慮の事故で亡くなられて...
深い悲しみで、しばらくの間、作品を作る手が止まっていました。
溶かす前のガラスを見るたびに、先生が教えてくれた技法と、怒られた時の言葉が、何度も頭の中に浮かびました。
その言葉に支えられ、私はまた火を灯し、少しずつ前に進み出しました。
やがて、自分の手で初めて「きれいに咲いた」と思える花をガラスの中に咲かせることができたのです。
今では、制作したガラス作品は2万点を超えました。
「とんぼ玉100人展」では2期連続で作品が完売し、現在は先生の遺志を継いでガラス講師も務めながら、60人以上の方に技術を伝えています。
私は、何事にも真摯に向き合うことを大切にしています。
美しい花がガラスの中にふわりと咲いたとき、その一瞬の奇跡のような美しさが、誰かの心にもそっと花を咲かせてくれたら——
そう願いながら、一つひとつの作品を生み出しています。
忙しい日々の中でふと手に取ったとき、少しだけ心が和らぐ。
大切な人への贈り物として、その人の記憶に残る。
私の作品は、そんな「静かな感動」を届ける器でありたいと思っています。
これからも、花のある器を通して、日常にそっと寄り添う美しさと、季節の移ろい、そして小さな癒しを届けていきます。